「こちらの未亡人は、話が早い。それでは、俺が以前使っていた部屋へと戻ろう……何。喪が明ければ、結婚しても良いらしいからな。半年ほど時を待てば、この邸も美しい妻も、全て俺のものだ!」

 大声で笑いながら去っていくヒルデガードに、使用人たちは一様に怯えた様子を見せていた。

 無理もないわ。亡くなった旦那様の弟が、あんなにまで乱暴な人だったなんて。

「皆、大丈夫よ。いつも通り仕事に戻ってちょうだい。クウェンティン……大丈夫? 私を守ってくれて、ありがとう」

「奥様。ヒルデガードを殺しましょう。旦那様も、そう望まれるはずです」

 そうだ。夫のアーロンが死なずにここに居れば、きっと私を守ってくれただろうか。

 私は実家で母の亡くなった後だって、何度も何度もそう思った。

 ……母が生きていてさえくれれば、私はこんなことにはならなかったのではないかと。

 けれど、亡くなった人はどんなに強く望んでも、もう戻ってこないと、私は思い知っていた。

 どんな苦境に陥ったとしても、自分でなんとかするしかないのだと。