歴史政治経済に至るまで基礎から応用までを順序立てて知り、私は結婚してから学問の楽しさを知った。

 静かで平和な日々が続いた、半年後のことだった。

「兄アーロンが死んで居ないのならば、俺こそが跡取りだろう!」

 大きな声で騒いでいる男性の声を聞き、私が玄関ホールへと降りれば、そこには背の高い金髪の男性が居た。

 金髪金目で容姿の整った美しい男性だ。ただ、あまり性格が良さそうに見えなかった。大声を出したとても優雅とは言えない横暴な振る舞いが、目に付いてしまったせいかもしれない。

「……あれは?」

「アーロン様の弟、ヒルデガード様です。数年前にあまりに放蕩が過ぎて、先の当主様よりキーブルグ侯爵家を勘当されていたのですが……まさか、今、こちらへ帰って来るとは思ってもいませんでした」

 常に冷静沈着なクウェンティンが帰ってくるはずのないヒルデガードの帰還に動揺していて、心中を表してかその赤い目は揺れていた。

 アーロンの両親は、三年前に事故で亡くなってしまったらしい。ヒルデガードは、その前に勘当されてしまった弟なのだろう。