また、あの意地悪な義母と義妹に散々な態度で使用人のように振り回されるくらいならば、新しい当主を迎えることになるキーブルグ侯爵家で雇ってもらえないかとお願いしようとまで考えていた。

「いいえ。奥様はアーロン様の正式な妻なのですから、キーブルグ侯爵家に、このまま居て頂きます」

「え……どうしてなの? 当主が不在ならば、親戚筋から後継ぎを探すのが、通常の手順でしょう?」

 未亡人が仕方なく爵位を継ぐ時もあるけれど、それはあくまで緊急時のみだ。私のように初夜も済ませていない妻など、用無しだと思われても仕方ないのに。

「……ええ。ですが、旦那様からのご命令で、貴族院には正式な書類は既に提出されています。軍人たる旦那様が何かあった場合は、奥様に全ての財産や権利などが問題なく遺されるようにと……事前に全て整った遺言状もございます。このままキーブルグ侯爵の未亡人として、この邸に留まりください」

「えっ……待って。嘘でしょう。クウェンティン」

 思ってもいなかったことに、私は驚いた。