「ああ……ですが、奥様。こうなってしまっては、旦那様とお会いしなくて、幸いだったかもしれないです。こうして、亡くなったものは仕方ありませんし、奥様の悲しみの深さとて会ってからよりも浅くなるでしょう」

 主人を喪ったばかりだというのに、全く悲しむ様子のないクウェンティンは、これからの未来を悲観して、ベッドに潜り込んで泣いていた私に淡々と諭すように言った。

 それは、確かに……クエンティンの言う通りに、亡き夫アーロンと一度も会わなかったのは、幸いだったかもしれない。

 私がアーロンと既に会い、気持ちを通い合わせていた後で彼が亡くなった時、ここで泣き崩れているどころではなくなると思う。

 今はただ……独りになってしまい、頼りなく悲しくて。けど、それだけだ。

 親しく愛しい人を亡くしてしまったという、悲しみではなかった。

「クウェンティン……アーロン様が居ない今、侯爵位は誰が継ぐの? ……私は実家のエタンセル伯爵家に、戻らなければ駄目よね……?」

 実のところ、アーロンが亡くなったと聞いた私は、エタンセル伯爵家に用無しだと返されてしまうことを、とても恐れていた。