ベッド脇のすぐ傍に居たのは、夫アーロンが気に入って重用していたという執事クウェンティン・パロット。

 キーブルグ侯爵邸に務める使用人たちも彼の指示を聞くようにと、当主アーロンより常々聞かされていたそうで、今は優秀な彼を中心にしてこの邸は回っていると言っても過言ではない。

 私という部屋の主からの返事がないままに、クウェンティンは入室していたらしい。

 すっきりとした清涼感のある整った顔立ちを持つ、ふわりとした銀髪と印象的な赤い目を持つ執事は、まだまだ年齢的に若い。

 彼は社交界デビューが遅れた十七歳の私と、同じ年齢くらいのようだ。

「不躾な真似をしてしまい、本当に申し訳ありません。奥様。何度お呼びしても、お返事がなかったもので……もしかしたら奥様に何かあったのではないかと、心配が過ぎて部屋に入ってしまいました」

 こうして、主人の許しも得ずに入室するなど、通常の状況ならばあり得ない事だろう。

 けれど、こういう緊急事態で何かあったのかもしれないと思うことは仕方ないだろうと、クウェンティンは全く悪びれた様子なく、落ち着いた口調で言い訳をした。