アーロンは軍人で国が危ない時には、急ぎ出征しなければいけないことは理解していた。

 けれど、古くから歴史を持つキーブルグ侯爵家の結婚式なので、両家の親類たちや縁のある家から招待客なども華々しく、なんなら王族だって出席されていた。

 ……だと言うのに、結婚式を中止するの?

 信じられない思いで私が聞けば、クウェンティンは可愛らしい顔の表情を全く変えることなく頷いた。

「ええ。奥様。これは、国の一大事です……三国での連合軍が我が国の国境を越えたという、とてつもない緊急事態が起こったというのに、その重大性のわからぬ痴れ者との縁は、今日で限りにした方がキーブルグ家にとっては賢明でしょう」

 それは……執事クウェンティンの言う通りだわ。

 結婚式だからとほんの数時間だけだからと、その時間、将軍が戦場に行けないとして、どれだけの部下が犠牲になるのだろう。

 私たちにとって、結婚式は人生に一度しかない晴れ舞台だけど、この戦争に負けてし待ったら、多くの国民の人生そのものが終わってしまうかもしれない。

「あの、旦那様は、もう既に向かわれたの? ……ご挨拶だけでも、出来ないかしら」