「まあ。あの女性は、もしかしたら……今までヴェールで顔を隠していた、キーブルク侯爵夫人なのではなくて? 髪の色も背格好も彼女のようだわ」

「かの有名な血煙の軍神が亡くなってから、一年が経って、ようやく侯爵夫人の喪が明けたのね。それにしても……」

 ひそひそ声で交わされる好奇心旺盛な会話が私本人の耳にまで届いて、澄ました表情を貼り付けているはずの顔は、恥ずかしさのあまり、ついつい赤くなってしまっているだろう。

 私はつい数日前まで、夫を亡くした私は何処へ行くにも黒いレースのヴェール付きの帽子で顔を隠し、真っ黒な喪服に身を包んでいた。

 地味な装いが常だった未亡人が、今夜は胸元が大胆に開いた赤いイブニングドレスを身に付けているのだから……こちらを見るな自分に注目するなと言う方が、無理な話だった。

 それに、私は注目を集めたいと思い、このドレスを選択したはず。

「そういえば……キーブルク侯爵夫人は、元々何処の家の方だったかしら?」