私はその時、庭園に鋏を置き忘れたサムを怒ろうとしたお義母様のことを知っているような気がしたけれど……もう良いかと肩を竦めた。

 あの時は本当に義母を恐れていたけれど、今では何も思わない。どうしてあんなにも恐れていたのかと、不思議に思って仕舞うほどだ。

「アーロンの命が助かったのだから、サムにはいくらでも支払って良いと思っているわ」

「ええ……本当に、あの怪我でここまで動けるようになる事は、奇跡的なことだったんですが……」

 アーロンの怪我はかなり深刻だったようで、連れて行った医者が血相を変えて処置する事態になったのだけど、三ヶ月後には歩けるくらいにまで驚異的な速さで回復し、半年経てば日常の生活を送れるようになっていた。

 アーロンはあの発言が、大体の国民も笑い話になっていると知っても特に気にせずに面白そうに笑っていた。

 自分が死んだ事にしても自軍に有利に働く状況を作り出す人なのだから、妻と初夜を過ごさずに死んでしまうかもしれないと大怪我をした時に嘆いたって言われたって……きっと、どうでも良いのね。

「アーロンがそうしたいと言うのなら、きっと大丈夫でしょう」