けれど、もう私には関係ない。アーロンはもう家族でもなんでもないと先んじて言っていたし……いくら私でも夫を殺そうとした殺人犯に、情けを掛けることもないと理解出来る。

「奥様!」

 倒れているアーロンと私の元にやって来てくれたのは、執事のクウェンティンだった。彼らしくとんでもない状況を目にしても、冷静沈着だった。

「クウェンティン! ああ……帰って来てくれたのね」

「はい。旦那様を医者まで運びます。奥様はお怪我はございませんか?」

 クウェンティンは私の身体に付着した血を見て、そう尋ねてきた。

「……私は大丈夫よ。アーロンが、守ってくれたの……身体のどこにも、傷はないわ」

 堪えていた涙が溢れて、止まらなくなった。アーロンは自分が大怪我を負っても、妻の私の事は守ってくれた。

 ……アーロン。お願いだから、死なないで。

 クウェンティンの連れていた従者たちも手伝い、大きな布に載せられてアーロンはようやく医者の元へと運び出されることになった。

 おそらく、遠くなっていた意識の中で、不意に目を覚ましたのだと思う。

「……嫌だ! 初夜もまだなのに、死にたくない!」