「……うるさい」

 ……この、決定的な瞬間を迎え撃つために、何を言われても、じっと黙っていたんだ。

「……アーロン。大丈夫?」

「ああ。大丈夫だ。よくやった。ブランシュ。君は立派なキーブルグ侯爵家の人間だ。俺が認めたんだから、誰にも文句は言わせない」

「……兄上! あにうえ!! 助けてくれ!!」

 刺されてもアーロンは痛がらずにじっと耐えて反撃する機会を窺っていたけれど、ヒルデガードは痛みに弱いのかのたうち周り、見たくもないくらいにひどい有り様だった。

「父が勘当したあの時から、お前は弟でもなんでもない……ああ。やばいな……目が、見えなくなって来た」

「アーロン? ああ!」

 唐突に倒れ込んだアーロンに、私は驚き慌てて彼の身体を支えた。

「悪い。顔をよく見せてくれ。最後に……」

「それ以上、何も言わないで!!」

 私の悲鳴交じりの高い声にアーロンは驚いているのか、死にかけているはずなのに、とても驚いている表情になった。

「ブランシュ……俺は」

 アーロンに遺言めいた言葉なんて、絶対に言わせない。私の自分勝手だって、いくらでも罵られても構わない。