先のキーブルグ侯爵は、一番温情ある処置を取ったのね。彼にとっては可愛い息子だもの。当然のことなのかしら。

 けれど、先のキーブルグ侯爵も、アーロンも出来なかったことを、私はここでするわ。

 ……だって、私はキーブルグ侯爵夫人。キーブルグ家の一人だもの。

「黙っていて。アーロン。私に人が殺せないと思っていた? 貴方を守るためならば、いつでも敵を殺せるわ」

 ……そうよ。ヒルデガードを殺したくないと思っていた。それは、すべてアーロンのため。

 ヒルデガードがアーロンに危害を加えるのならば、話は別よ。

「ブランシュっ……」

「私が、代わりにヒルデガードを殺すわ。アーロン……今まで、ごめんなさい。貴方の言って居たことは正しかったのね。ヒルデガードは兄の掛けてくれた温情を、仇で返す男。けれど、責任を持って、私が殺します」

 震える身体……今にも涙が溢れ出しそうな目。逃げたいという気持ちを、必死で堪えて耐えていた。

 だって、私がここで守らないと、アーロンは殺されてしまう……それだけは、絶対に嫌!