「その傷で、強がりがいつまで続くでしょうか。ここで死んだら、兄上のものはすべていただきます。キーブルグ侯爵家の血を持つ僕だけです。妻も可哀想だから、引き取りますよ。実家には帰りたくないようですしね」

 嫌な笑い。私がエタンセル伯爵家の戻されれば、どうなるかを知っているんだ……だから、逆らわないだろうと?

「……ふざけないで! 死んでも貴方の妻になんてなるものですか!」

 私は倒れ込むアーロンを支えて、ヒルデガードを睨み付けた。

「姉上?」

 ヒルデガードは私が声の限り叫んだことで、呆気に取られているようだ。これまでのことを考えて、私は自分には、逆らわないと思っていたのだろう。

「私はキーブルグ侯爵夫人よ! 私は自分の夫を守るわ。もし、彼を殺すというのなら、私を先に殺しなさい!」

 村の中に響き渡るような声で睨み付けながら叫んだ私に、目がおかしかったヒルデガードも怯んでいるようだ。

 ……何よ。

 あの時にひどく恐れていたものは、こんなにも……弱くて卑怯で、私の怒りの言葉にも言い返せない、くだらない男だったのね。