あんなにも恐ろしかった義母は、私にはもう手が出せない。

 不敗の軍神と呼ばれる夫アーロンに守られて、私は幸せだ。

 ……心からそう思う。何があったとしても、私を守ってくれる。愛してくれる。誰よりも肯定してくれる。

 アーロンは私との距離を縮めようとしてか、ことある毎に逢瀬(デート)を望んだ。

 今日も王都の郊外にあるにある、小さな村で買い物をしようと言うのだ。エタンセル伯爵家での生活を話せば、彼は遠出を良く提案してくれた。

 馬車で二時間ほどかかる道のりだけど、アーロンと一緒ならば気詰まりすることもなく、長時間の移動も楽しむことが出来る。

 お母様が亡くなってから、私が失った何もかもを、彼が取り戻してくれたような気がしていた。

「しかし、帳簿を確認して驚いた。ブランシュ」

 馬車に揺られて変わらない風景を写す窓をぼんやり見ていた私に、アーロンは言った。

「自分は生活するのに必要な物以外何も買わずに、仕事ばかりしていたか……クウェンティンは、俺の言うことを聞いていないな」

 私は苦笑した。

 執事クウェンティンは料理人に頼まれたとかで、途中の村で新鮮な海産物を仕入れに行って、今一緒には居ない。