「……何かしら?」

 お義母様は気を取り直して、アーロンに聞き返した。

「この家に、俺の愛人を騙る妊婦を送り込んだ者が居たようだ。金貨十枚を払って雇ったとか。貴族でもなかなか払えるような金額ではない。もしかしたら、お知り合いなのかもしれないと思ってね。何か知っていますか。エタンセル伯爵夫人」

「知る訳がないでしょう! なんという失礼な!」

「どこが失礼だと言うんだ! 不在の間に、キーブルグ侯爵家の血を継ぐという者を送り込まれたんだぞ! それをされて、俺が怒らないと思うのか。血が繋がらないとはいえ、どこまで義娘のブランシュを愚弄するつもりだ」

「証拠もないことを……キーブルグ侯爵家も堕ちたものね!」

「ああ……証拠ですか。あちらをご覧ください」

 アーロンが扉を示したので、私たちはそちらを向いた。

「サマンサ!」

 そこに居たのはサマンサだ。そして、彼女の腕にはあの時に生んだ赤子が居た……元気そうだわ。良かった。それは勘違いだったとしても、もしかしたら血の繋がらない息子として育てたかもしれない子なのだ。

 生まれた時も見に行ったし、この子に情もあった。