それとも、これから何が起こるのだろうと、内心は期待してこちらを見ているのかもしれない。

 ……死んだはずの夫が、会ったこともない妻と、今ここで初めて会うのだから。

 私へと着々と近付いて来る彼の一挙一投足に、周囲は注目していた。

 それも、そのはず。だって、私の夫は……一年前に亡くなってしまったはずだったのに。

「なんだ。こんな……胸を出した下品な格好は……俺の妻なのに!」

 すぐ傍にまで来た彼は自分が羽織っていた軍服の上着を歩きながら脱いで、私の肩へと掛けて、前をボタンできっちりと閉めた。

 そんな時にも声すら出せず、ボタンを留めた時に、私は初めて自分の夫の顔をしっかりと見た。

 切れ長の目は、涼しげな青。軍人というには気品あり、凜として整った容貌。戦場帰りらしく無造作に切られ、頭の後ろでひとつで括られた黒髪。

 身嗜みを整えるような余裕などはなかったせいか、近付いた時にムッとするような汗の匂いもしたけれど……私は何故か、それに不快だと感じなかった。

 夫アーロンは絵姿は嫌いらしく、家には一枚も残されていなかった。