「え?」

 私が驚いて彼を見つめると、いかにも心外だと言わんばかりにこう言った。

「お前と結婚すると決めていたのだから、他の女には絶対に手出しする訳がない。もし、それを後から知られれば、嫌われてしまうではないか」

「アーロン……」

 二人見つめ合ったその時に、おもむろに馬車の扉が開き、そこからクウェンティンが顔を出した。

「お話中に、失礼します」

 クウェンティンはてきぱきと私へ手を差し伸べ、用意した足台へと歩を進めるように促した。

「おい……声を掛けるタイミングを、間違えていないか。クウェンティン」

 扉を開ける前に声を掛けろと言いたげなアーロンに、クウェンティンは冷静に言い返した。

「いえ。二人のお邪魔してはいけないと、かなりお待ちしたのですが、ご夫婦がなかなか出て来ないと、使用人全員が動くことが出来ません。僕は執事として適切な行動をしました。旦那様」

 クウェンティンはアーロンに逆らうことも、特に気にしていなさそうだった。

「ごめんなさいっ……もうここへ到着して、かなり時間が経っていたのね」