「俺はこれから特に死ぬ予定はないし、あれだけ数の差がある勝算の薄い戦いを勝って、帰って来たばかりなのだから、今ならば何があっても死なないと言い切れるな」

 生涯不敗を誇り軍神と呼ばれている夫アーロンは、余裕ある態度で足を組んだ。

「……アーロンはいつも余裕がありますし、羨ましいです。それだけの余裕が持てるのなら、きっと何があっても大丈夫ですわね」

 私はそう思った。

 アーロンはいつも落ち着いているし、帰って来たばかりの時は、彼が感情を昂らせ怒っているところを見たことはあるけれど、何か予想外の事態を前にして焦っていたり慌てているところは見せたことはない。

「俺が余裕があるように見えるのは、それは隠しているのが上手いだけだ。余裕なんてない……ブランシュに、嫌われたくないから」

「アーロン……あの、実はアーロンは、最初、私のことをお嫌いだと思っていました。怒ってばかりいたから……」

 私は素直に、その事を伝えた。怒ってばかりという言葉に、自覚はあったのだろう。アーロンはなんとも言えない表情になっていた。

「仕方ない……慣れないんだ! 俺はこれまで、お前だけだったんだぞ!」