だから、ここまでの修羅場になってしまうことは、稀だけど……荒々しく大声をあげた彼は、きっと余程自らの奥方のことを、愛しているのね。

 なんだか、羨ましい……私だって誰かから、そんな風に愛されてみたいと思うもの。

「おい。そこのお前! 俺の妻から早く離れろ! さもなくば、殺す!」

 会場に吊されたシャンデリアの光を弾いて、きらめく白刃がその瞬間見えた。

 社交を楽しむはずの夜会で大声が聞こえて、何が起こったかわからない事態に事の成り行きを見守っていた貴族たちは、しばしの沈黙を破り騒然となった。

 武器が見えて物々しい気配を感じ、まさかの事態に、驚きの声があふれる。

「? おいっ……嘘だろう。あれは、死んだはずの将軍ではないか!」

「なんだ。どうなっているんだ? 一年前には、あの男の葬式だってあったはずだろう?」

 ……え?

 混乱する声の中に、聞き捨てならない言葉が聞こえ、私は戸惑った。

 死んだはずの将軍ですって?

 大声を出して怒鳴った彼自身が正気を取り戻したのか、身を挺して彼の侵入を止めていた衛兵から、剣だけは絶対に駄目だと諭されたのかは知らない。