「ええ。大丈夫。貴方なら、きっとなれるわね。いつか、有名な傭兵の話を聞くのが、楽しみだわ」

 そう言って微笑んだブランシュは、彼女の母親らしき貴婦人に名前を呼ばれて手を振って呆気なく去って行った。

 素直で可愛らしい女の子だった。

 貴族のご令嬢と言えば、我が儘で高慢ちきな女しか会ったことのない俺には、とても新鮮な驚きだった。

 ふわっと風に靡く柔らかな白いドレスと、走り去る姿から目が離せなかった。

「アーロン……可愛いご令嬢だな」

 不意に低い声が聞こえて見上げれば、そこに居たのは祖父だった。にやにやと嫌な笑いを浮かべていて、顔を顰めるしかなかった。

 どうせ可愛い女の子に見とれていたことを思う存分に、揶揄うんだろうなと思った。

 ……俺の祖父は、そういう人だった。反発もしたくなるというものだ。

「もし、アーロンがキーブルグ侯爵になるのなら、あの子と結婚出来るぞ」

 その頃の俺は、勉強が嫌いで嫌だ嫌だと逃げ回り、剣の稽古だけをしていた。跡継ぎがそんな様子では両親も頭が痛かっただろうし、既に爵位を譲った祖父とて何か手を打たねばと思っていたはずだ。