……キーブルグ侯爵家など継ぎたくないし、ましてやお上品な貴族でなんて居たくない。

 俺には弟(スペア)であるヒルデガードが居るのだから、やる気のない嫡男が爵位から逃げたとしても問題はないだろうと幼い頃から考えていた。

 育ちが試される面倒くさい礼儀作法や、貴族独特の言い回しや、思ってもいない美辞麗句を学び、うんざりしていた。

 産まれた家が……貴族だから、なんなんだ。

 王から貴族だと認められた血筋だというだけなのに、偉そうにふんぞり返る人生など、絶対に向いては居ない。

 剣に生きる方が向いている。そう思って居た。逃げ出せばよいのだ。

 ある日、俺は祖父にスレイデル王城へと連れて行かれた。

 なんでも祖父さんの旧友が未来のキーブルグ侯爵に会いたいと言い出したとかで、挨拶だけを済ませれば、子どもにとっては大人同士の会話は暇で退屈で堪らなかった。

 俺が応接室を出ても、誰も気にしていないし、城の中を探検して帰ろうと思った。

「……こんにちは」

「こんにちは」

 近くの庭に出ると同じ年頃の女の子が居て挨拶をして来たので、俺も普通にし返した。