彼にそう聞かれて、アーロンはそこで何故、私が海に落ちてしまっていたのか、聞いていないことに気がついたようだ。

「……そういえば、何故ブランシュが海に落ちたかを聞いていなかったが」

 間抜けなことに私自身もその事を、すっかり忘れていた。海に落とされた後に、犯人の顔だって見ていたというのに。

 そんなことよりも、私にとって重要な事に気を取られてしまっていたからだった。

「そうでした……アーロン。私を海に突き落としたのは、あの人なのです。貴方の愛人を装ってキーブルグ侯爵邸に居た……サマンサさんだったのです」

「……なんだと?」

 今までのアーロンであれば、怒りのあまりここで怒鳴ってしまっていたかもしれない。けれど、彼は激しい怒りの表情を一瞬見せただけで、何度か大きく息を吐いて自分を落ち着かせているようだった。

「旦那様……今は奥様を抱きかかえたままですので」

 クウェインティンのたしなめるような言葉を聞いて、アーロンは頷いた。

「わかっている。俺だって何度かやらかしてしまったことの、自覚はあるんだ。あの女……確か、子どもを置いて逃げ去ったと聞いたが」