沈みゆく様子を観察しようとしてか、その場に佇んでいた人物は、膨らんだドレスを着た私がなかなか沈まない事に気がつき、時間が掛かると踏んだのか、ふいっと顔を背けて去って行った。

 ……どうして? こんな場所に彼女が居るの?

 あれは、アーロンの子を身ごもったと嘘をつきキーブルグ侯爵家に入り込んだサマンサだった。さきほど水に沈み行く私を観察する目は酷薄で、これまで私の知っている彼女であるとは思えなかったけれど……。

 スカートは無事に水の中に落ちたので、岸に近付こうとした。

 子どもの頃にエタンセル伯爵家の領地にある川で良く水遊びをしていたので、実は私は泳げるのだ。けれど、大抵の貴族令嬢は泳げないと思う。

 それに、スカートを外すという知識がなかったら、あのまま沈んでしまったはずだ。

 ここは人気も少なく、悲鳴をあげたからと、すぐに人が来てくれる訳ではない。

 ゆっくりと岸に向かって泳ぎながら私は命の危機を乗り越えたのだと、ほっと安心していた。

 その安心が、いけなかったのかもしれない。いきなり右足が引き攣れるようにして痛み、水中で足がつってしまったのだと理解した。