私は置いてきぼりにしてしまった夫の元へ戻ろうと決意して、立ち上がろうとした。

 その瞬間に、誰かに背中を押された。

 ドレスのスカートは水面にふわりと広がり浮くと、私は咄嗟にスカートの紐を解いた。

 以前に何かの話のついでに、執事クウェンティンが話してくれた内容を覚えていたからだ。

 ドレス姿で水に落ちれば大変だと言った私に対し、彼はスカートさえ外してしまえば助かるだろうと言ったのだ。

 今は空気を含んでいて水面に浮いたとしても、水に濡れたスカートの重させいで引き摺り込まれるように沈んでしまう。

 だから、スカートさえ先に外してしまえば、最悪の事態は避けられるだろうと。

 クウェンティンは何故か私に、こういう危機があればこうすれば良いと話してくれる機会が多かった。それで助かることが出来たのだから、彼には感謝しなければ……。

 身軽な格好になった私は、とにかく岸に上がろうと顔を上げると、とある人物の顔が見えた。

「あ……あなたは!」