気がつけば、海辺にまで辿り着いていた。

 走り疲れた私は岩場に座って、月の光が映る波をただ見た。それを、綺麗だと思った。

 落ち着いて考えてみて……わかっていた。このまま、こんな風に逃げ出したままではいけない。

 どれだけ辛い事であったとしても、彼と結婚しているという事実がある限り、アーロンと向き合わなければならない。

 ヒルデガードから私と結婚したのは爵位のためだと知らされてから、その事しか考えられなくなっていたけれど、これまでにアーロンがくれた優しさを思い出していた。

 ……結婚してからすぐに、死んだ振りをしていた事は責められない。

 アーロンはこの国を守るために、それこそ手段を選ばなかっただけだ。

 騙すなら身内からと言ったもので、妻の私が彼を生きていると知っていれば、そこから綻びが生まれて、連合軍に敗れていたかもしれない。