あの時にヒルデガードが、私に言っていた通りだったんだ。アーロンは私のことを、彼が望んだからと、妻として迎え入れてくれた訳ではなかった。

 すべては、彼が侯爵位を受け継ぐための条件であったから。

「……ごめんなさい!」

 堪えきれずに目に涙を浮かべた私は、その事実をどうしても受け入れがたくなってしまい、川沿いを走り出した。

「ブランシュ……待ってくれ!」

 アーロンの焦った声が聞こえたけれど、私はそんな彼を待つことなく、まっすぐに走った。私に決めた行き先なんてある訳がなくて、闇雲に走り暗い路地に入り何度か何も考えずに道を曲がった。

 もし、アーロンが足が速かったとしても、私に追いつくことは容易ではないと思う。そんな風に走った。

 ……とにかく、今はもう一人になりたかった。やはり、夫アーロンは、私のことなんて、好きではなかった。爵位のために、結婚しただけだった。

 私の事を好きになってくれたからだと、夢見ていたことが破れて、悲しくて……辛くて……仕方なかった。

 私は……ここから、どこに行けば良い? どうしよう。どこにも行けない。実家にも帰れない私には、もう居場所なんて、何処にもあるはずがないのに……。