……けれど、縁談を申し込み、本来ならばエタンセル伯爵家から持参金を貰うところを、それなりの金額を払うというあり得ない条件を呑んでまで私と結婚した。

 確かに、不思議だった。ヒルデガードの言葉を聞けば、その謎は解けてしまう。

 先のキーブルグ侯爵から、爵位を受け継ぐ条件として、私と結婚することを望まれていた。だから、アーロンは仕方なく私と結婚した。

 あの……優しい眼差しも、安心出来る抱擁も、全ては爵位を継ぐための嘘だったのかもしれない。

 一人馬車に揺られてアーロンが予約したと言うレストランまで辿り着き、外に立ち私を待っていた夫の姿を見て、ここままではいけないと思った。

 いつも……誰かに何かしてもらうのを、待つだけではいけない。

 たとえどんな理由だとしても、アーロンと本当の夫婦になりたいならば、ここで勇気を出さなければいけない。

 美味しいと評判なはずなのに、緊張のあまり味のしない豪華な夕飯を食べ終わり、腹ごなしに川沿いを歩こうと夫に提案され私は頷いた。

 静かな川沿いは、私たち以外にも散歩している男女が多かった。