事件が立て続けにあったせいか、ここ数日、私があまりにも元気がないから、心配して気分を変えようとしてくれたのかもしれない。

 わかっているのに、ヒルデガードの言葉が頭を離れていかない。

「……わかったわ。準備します」

 クウェンティンは、私の返事を聞いて、無言で礼をして出て行った。

 最近は彼から何か教わることもないし、アーロンからの伝言であるとか、こういった機会でもないと会わない。

 夫アーロンが帰る前は、クウェンティンが唯一の味方のようにも思えていた。けれど、彼はアーロンに命じられて私の傍に居てくれただけで、ただ職務に忠実なだけだ。

 ……私の味方なんて、何処にも居ない。

 悲観的になり過ぎているとは、自分でも分かってはいるけれど、楽観的に考えても今居る状況は変わらないのだから。

 昨夜のヒルデガードのあの言葉、アーロンが侯爵家を継ぐために、見知らぬ私と結婚したというあの言葉。

 禍々しい呪いのように、私に纏わりつき、どんなに振り払っても離れてくれない。

 彼の言う通りアーロンは、私を見たこともなかったはず。