アーロンが怒りの表情を見せこちらに迫ってきているというのに、ヒルデガードはおかしいくらい冷静な態度で、私にもう一度囁いた。

「義姉上。どうか、考えてみてください。きっと俺の方が良いと思うでしょう。地位のために義姉上を求めるような男より、貴女自身を愛する俺の方が……」

 ヒルデガードは言い終わると、サッと身を翻して窓から飛び降りて去って行った。

 ここは、高さのある二階なのに……ヒルデガードはアーロンの弟なのだから、元々の身体能力が高いのかもしれない。

「もう我慢ならない……血の繋がった肉親であろうが、容赦しない。殺す。クウェンティン。あれを始末しろ」

 アーロンは窓から飛び降り走って逃げていくヒルデガードを見下ろし、彼に続いて私の部屋へと入って来たクウェンティンに命令した。

「かしこまりました。殺し方はいかがなさいますか」

「任せる」

 私はそんな主従の殺伐としたやりとりを、いつものように止めることもせず、黙ったままで呆然として見ていることしか出来なかった。