キーブルグ侯爵家を勘当されて追い出され、不在時に勝手をして兄の怒りを買って荷物ごと叩き出されたのだ。

 それを、今都合よく忘れたなんて、言わせない。

「まあ、聞いてください……兄が義姉上と、結婚した理由を知りたくないですか?」

「え……?」

 確かにアーロンは私を見たこともないはずなのに、縁談を申し込んだ。それを一番に不思議に思っていたのは、私自身なのだ。

 ……どうして、アーロンは会った事もない私と、結婚したがったの?

 ヒルデガードはそんな私の心を読んだかのように優しく微笑み、彼らしくない柔らかい口調で耳元で囁いた。

「貴女と結婚することが、キーブルグ侯爵家を継ぐ条件に含まれています。嫡男の兄さんは、それを忠実にこなしています……あんなわからずやの暴君よりも、俺の方が義姉上に優しく出来ます」

ーーああ……やっぱり、私を愛して求めてくれる人なんて居ないんだ。

 その時、扉が開いて何故か入ってきたアーロンが、私に迫るヒルデガードを見つけ大声を出した。

「おい!! ヒルデガード! お前……何をしている!!」