「今日は疲れただろう……おやすみ。ブランシュ」

 部屋まで送ってくれたアーロンは、頬に軽くキスをしてから去って行った。

 そう言えば、私たち二人は結婚していると言うのに、唇のキスもまだして居ないし……初夜だって、まだ……。

 先ほど、アーロンが初めての夜を匂わせるようなことを言い、それを聞いた私は、正直に言えば浮かれてしまっていた。

 アーロンは私のことを、真実愛してくれて……彼が望んでくれて、こうして彼の妻になれたのだとそう思えたから。

 誰かから愛されることなんて、私にはないのかもしれないと心のどこかで恐れていた。

 幸せになりたいけれど、何か頑張ろうとすると駄目になり、どうせ無駄だと思ってしまいそうになっていた。

 けれど、アーロンは私の元に帰ってきてくれたし、妻として大事に思っていることは間違いない。

 帰宅はかなり、遅くなってしまった。もう早朝に近い時間で、お付きのメイドたちも傍近くに控えてはいない。

 けれど、アーロンと私が帰宅したことが知れれば、ドレスや湯浴みの準備に出てきてくれるはずだ。

 彼女たちをわざわざ私が呼び出すこともないだろうと、何気なく後ろを振り返った。

「……姉上」

 信じられないことにすぐ傍に、アーロンに追い出されたはずの義弟ヒルデガードの姿があった。

「っ……え!? ヒルデガード。どうして……貴方がここに居るの?」

 信じられなかった。

だって、彼は部屋にある荷物ごと追い出されて、アーロンに「もう二度と、顔を見せるな」と、告げられていたもの。

「義姉上。この青いドレスも、とても良く似合われていますね。美しい貴女に良く似合っていますよ」

 アーロンが帰って来る前のような、いやらしい目付き、私が慌てて身を引こうとしたら、壁際にまで追い詰められた。