私が顔を俯かせていたことに気がついたアーロンは、苦笑して私に近付き、肩に手を置いた。

「だが、ここで初めての夜を過ごすことには、俺は抵抗がある。酒を断った理由はそれだ。気にしないでくれ」

「えっ……」

 私が顔を上げたその時に、扉が叩かれて、アーロンはそちらに顔を向けた。

「何だ」

「旦那様。近衛騎士団長が、単なる事故で、これ以上の危険はないと結論付けられたようです。すぐに帰宅なさいますか」

「わかった。すぐに帰る。馬車の準備を」

「御意」

 執事クウェンティンは、アーロンの指示を聞き胸に手を当てて頭を下げると、扉を閉めて去って行った。

「ブランシュ。帰ろう。君も疲れただろう」

「はい……あのっ……あの、アーロン」

 私は夜会の間にお酒も飲んでいたし、非日常の中で気持ちが大きくなっていたのかもしれない。

「どうした?」

「……私。私っ……旦那様しか、頼れないんです」

 家族にも嫌われて、執事クウェンティンだって、アーロンありきの関係だ。

 私が今頼れるのは、この人しか居なかった。