素早く部下に指示を下したアーロンは、私が怯えて泣いていることに気がついて、困った表情をして言った。

「ブランシュ。今ここで、泣いてはいけない。戦場で敵に慈悲を乞うな。ここは、今戦場になった。弱さを見せれば、すぐに喰われるぞ」

「……はいっ。申し訳ありません」

 勝手に流れてくる涙を止めようと懸命な私を見て、アーロンは戦ったこともない私に言い過ぎたと思ったのかもしれない。

 私の身体を力強い腕でぎゅっと胸に抱きしめて、安心させるように何度も背中を撫でた。

「悪かった……君は貴族令嬢で、こういう事態に全く慣れていない。だと言うのに、良くないきつい言葉を使った。ごめん」

 アーロンは慰めようとしてしてくれたはずなのに、私は逆により泣いてしまうことになった。


◇◆◇


 結局は不審者なども見つからず、おそらくシャンデリアを吊す金具の老朽化のためだろうと早々に推測された。

 けれど、アーロンは要職にある立場上、避難したついでに帰宅する貴族たちのようなことも出来ず、この事態が収拾するまで、私たち夫婦は城の中で留まることになった。