「ええ。ハンナだって求婚者が列を成して、大変なのではない? 私に構わず、踊ってきたら良いわ」

 彼女から早く解放されたい一心で私がそう言うとハンナは顔を青くして、不機嫌そうに眉を寄せた。

「お義姉様……私について、誰かに……何か言いませんでした?」

「ハンナのことを? ……いいえ。知っているでしょう。私はあまり交流する人も少ないから、貴女のことを話題にするなんて……」

「ですがっ……」

「ブランシュ。待たせたな……こちらは?」

 そこには、壇上から戻って来た様子のアーロンだ。ハンナと話している間に、挨拶が終わってしまったらしい。

 せっかくの夫の晴れ姿を、見逃してしまった。

「……ブランシュお義姉様の、夫ですって?」

 信じられないと言わんばかりのハンナは、わなわなと唇を震わせていた。

「ああ……ブランシュに、血の繋がらない義理の妹が居ることは聞いていた。初めまして。俺はアーロン・キーブルクだ。敵を騙すための作戦で、妻のブランシュには苦労をかけてしまったが、これからは何の心配することもないので、よろしく頼む」