モラン伯爵は系統でいうならば、多くの女性に好まれるような正統派と言える美しい男性で、たおやかな貴族的で洗練された容姿を持っている。茶色の髪も丁寧に撫で付けられ、緑色の瞳も輝いていた。

「これはこれは、とてもお美しい……キーブルグ侯爵夫人。以前から、ダンスにお誘いしたいと思っていました。もし良ろしければ、僕と踊って頂けないでしょうか」

 モラン伯爵はやけに熱っぽい眼差しで、私を見ていた。それとなく彼の目線を辿ると、大きく開かれている剥き出しの胸元の方へ。

 駄目だわ。一秒でも一緒に居たくない。

「いえ。申し訳ありません……実は、もう帰ろうかと思っておりまして……」

 しどろもどろの断り文句を口にしても、彼は縋るように胸に手を当てた。

「それでは、たった一曲だけでも構いません。このように美しい女性と踊る栄誉を僕にお与えください」

 流れるような優雅な所作で右手を取られて、私は触れられてもいない手袋の中の肌から順に、全身が粟立つような気がした。

 これは、たった一曲だけ踊るだけだとしても、むっ……無理かもしれない。

「そっ……それでは、一曲だけなら」