私は夫とのお茶を終えて部屋に戻ろうとしたけれど、やっぱり彼に聞こうと思い直し、部屋へ戻る廊下を引き返した。

「……奥様に全て、お話しするべきでは?」

「ブランシュからの希望でなければ、俺は動けない」

 テラスにはアーロンとクウェンティンの二人が残り、何か話しているようだ。クウェンティン以外人払いをしているのか、その他の使用人たちの姿は見えない。

「我が邸の来客リスト、ブランシュの先ほどの不自然な沈黙、俺には知られてはいけないと強く思うならば、十中八九あんな大怪我になるほどに手を鞭で打ったのはエタンセル伯爵夫人だろう」

「何故ですか。キーブルグ侯爵家として、厳重に抗議すべき事案です。我が家の奥様が他の貴族に鞭で打たれるなど、あってはならないことではないですか」

「お前はそういう……心の機微がわかっていない。ブランシュと俺との縁談に対し、金銭を条件としたのもエタンセル伯爵夫人だろう。血の繋がらないブランシュを気に入らないとしても、そこまでするなどと思ってもみなかった」

「奥様はエタンセル伯爵邸で、エタンセル伯爵夫人より、虐待を受けていたと……?」