キーブルグ侯爵家からの縁談に、持参金なく金銭を要求する条件を付けたと言うのに、アーロンは特に抗議することなくそれをすんなり受け入れたそうだ。

 私が今キーブルグ侯爵家に居て、何不自由なく生活できているのは、すべてアーロンがそうしてくれたおかげだった。

 扉を叩く音がして返事をすれば、クウェンティンが入って来た。

「奥様。早めに帰って来た旦那様が、テラスで一緒にお茶をどうかと仰っておりますが」

「すぐに行くわ」

 キーブルグ侯爵家のテラスは、日当たりも良く、お茶を飲むには最適な場所だ。

 私が慌ててテラスへ出て行けば、既に椅子に座っていたアーロンが立ち上がった。

「ブランシュ。サムから、花は届いたか」

 背の高いアーロンは私が座ることを手伝い、自分も丸テーブルの正面へ座った。

「ありがとうございます。とても綺麗でした」

「帰って来てから……どうしても気になっていることがあって、それを先に聞きたい。もし、言いたくなかったら良い。その傷は、誰にやられた?」

「……」

 アーロンが私の手の怪我を気になってしまうのも、無理はない。