「何も、謝ることはない。クウェンティンに聞けば、あのヒルデガードを当主とするために、再婚して出ていく気だったとか……何もかも全て、俺のせいと言えばそうなんだが、ドレスはいくらでも好きなものを購入してくれ」

「……はい。ありがとうございます」

 そういえば……私はもう、キーブルグ侯爵家を出ていく理由はなくなった。

 夫は有能な将軍で歴史ある裕福なキーブルグ侯爵家に嫁ぎ、人から見れば羨むような立場にあるというのに、突然に天と地ほども状況が変わってしまい、当人の私はなんとも居心地が悪かった。

 夫の弟ヒルデガードに迫られることももうないし、愛人を名乗っていたサマンサから、子どものためだとお金を無心されることもない。

「そういえば、サマンサのことで気になったことがあったのですが……」

「ああ……俺の愛人を名乗っていた、あの詐欺師の女だな。生まれたばかりの赤ん坊を慈善院に預けるかと問えば、そうしてくれと言って走って逃げたらしい。赤ん坊は罪がないので、俺も十分に食べられるようにと金を出した」