ルイーズが男爵の気持ちを慮っていると、ルーベルトがジャンに話しかけた。

「今は様子を見るしかないだろう。婚約に関しては、本当にその相手が原因なのかも定かではない。下手に刺激をしたら何をするかわからないぞ」

「ああ、そうだな……」

「白紙にする手続きはこちらでしておくから、オスカーにはそのことだけを伝えておいてくれ」

「わかった、必ず伝える。婚約のことといい、アイツの態度の悪さといい、本当に申し訳なかった。書類の件、よろしく頼む。」

「承知した、そこは心配するな。今は下手なことをせずに、オスカーを見てやれよ」

「ああ……」

 がっくりと肩を落とし、力なく返事をしてその場を後にする男爵。

 その姿を見つめるルイーズとルーベルトの二人は、黙って見送ることしかできなかった。


「ルイーズ、帰ってきてそうそうすまなかったな」

「大丈夫です」

「私とジャンで決めた二人の婚約が、このような結果になってしまったこと……本当にすまなかった」

「謝罪は受け入れます。だから、お父様も気にしないでください。私がもう少し気遣っていれば、オスカーの変化にも気づくことができたかもしれません」

「いや、ルイーズは十分良くやってくれた。ジャンからも聞いていたんだ。オスカーの領地経営の勉強を見てたり、身の回りの世話をしてくれていると。それを聞いて、安心していた。それに、ルイーズは家の手伝いもして、兄弟の面倒も見てくれている。ジャンには偉そうなことを言ってしまったが、私も反省せねばなるまい」

 父親から、労いの言葉をもらえるなど思ってもいなかったルイーズは、心につかえていたモヤモヤが、少しだけ解消されたような気がした。

 今なら父に言えるかもしれない。貴族令嬢としては、許されることではないかもしれないが、どうか許してほしいと……。ルイーズは、そんな気持ちで父親を見つめた。

「お父様、お願いがあります。しばらくの間、婚約はしたくありません。
それから……どうか少しだけ、私にこれからのことを考える時間をください。お願いします」