外に出た二人は、先ほど怪我をした男性の座っていたベンチに向かっていた。

「良かった。ここにいた男性は医務室に行ったのよね」
「そうね。怪我をしたのは顔だけのようだし、自力で医務室に行けたと思うわ」

 男性の座っていたベンチに腰掛け、二人は先ほどの会話を思い返しているようだ。楽しみにしていた修道院訪問で、まさかこんな話しを聞くことになるとは思っていなかったルイーズ。今は、疑問に思った内容を一旦手放し、エリーと向き合って話したいと思ったようだ。
「エリー、さっきの話を聞いてから、小さい頃の事を思い出していたの。エリーも、私の変化や違和感のようなものを感じていたのかしら?」
「……目の色に、違和感を覚えたときがあったの。その頃、私と話したことや約束していたことを忘れていた時があったわ。あの頃は、目の色や記憶も自分の思い過ごしなのか、勘違いなのか分からなかった。姉たちや母に聞いても、何も分からなくて……只々不安だった。ルイーズに何かあったんじゃないかって怖かったの。私、何も言えなくて、何もできなくて本当にごめんなさい」

「エリー、ありがとう。私がそんな状態なのに、いつも側にいてくれたわ。エリーとの思い出も、取り戻せたら良いのだけど……自分自身、まだ混乱しているのかな。少しずつでも、回復できるように努力するわ。だから、思い出せるまで待っていてくれるかしら?」

「もちろんよ。思い出せなくても、ルイーズと変わらずにこうして一緒に過ごすことができるだけで、私は幸せよ」

 ルイーズの変化に気づきながら、何も分からない状態で共に過ごしてきたエリーは、継続的な不安を抱えていたのだろうか。もしそうならば、心労的な負担も大きかっただろう。

 その後、修道院長室に戻るためにベンチから立ち上がった時、エリーが前のめりに倒れた。ルイーズは、近くを通りかかった人に助けを求めて、エリーを連れて医務室に向かった。

 エリーに外傷はなく、そのまま眠り続けているため、ベッドで休ませることになったようだ。知らせを受けたエマが、すぐさま医務室に来て、ルイーズと付き添いを変わり、ルイーズに修道院室に向かうように伝えた。