部屋を後にした二人は、静かに、それでも急ぎながら医務室に向かった。来た時に通った廊下では、まばらだが人が多く点在していたため、遠回りだが、途中から右側の廊下を渡って医務室に向かった。無事に医務室に辿り着いた二人は、消毒液やガーゼ、タオルを貸してもらい急ぎ院長室に戻っていた。

「お祈りの時間は終わっているはずだから、これから何か作業をするのかしら。思ったよりも人が多いのね」
「そうね。……、ねえ、エリー。あそこに座り込んでる人がいるのだけど、大丈夫かしら……ちょっと行ってくるわ」

 二人のいる場所から、二十メートル程のところに蹲っているような人が見える。ルイーズが近づくと、そこには口の端から血を流している男性がいた。

「大丈夫ですか。口の端から出血しています。ちょっと失礼します」

 男性の口元にガーゼを当て、出血している部分を軽く押さえる。

「まだ痛いですか? この先にある医務室で、傷口を見てもらってください」

 ルイーズに傷口を押さえられている男性は、目を丸くしながら驚いた様子でルイーズの顔を見ている。それはそうだろう、知らない女性がやってきたと思ったら、突然口元を押さえられたのだ。驚きしかないだろう。しかし、それだけではないようだ。男性の顔がみるみる赤く染まっていく。もうそろそろ口元から手をどかしてあげた方が良いのでは……と思った矢先に、エリーがルイーズに話しかけた。

「ルイーズ、その方、早く医務室で傷口を見てもらった方が良いわ」

 エリーの言葉に頷いたルイーズは、男性に医務室に付き合うか聞いているようだ。

「大丈夫、直ぐに医務室に行くから心配しないでくれ……親切に…ありがとう」

 男性の言葉に安堵したルイーズは、お辞儀をしてその場を去った。

 だから、その姿をずっと目で追う男性の視線には気づかずにいた。