「遅くなりました。申し訳ございません。ご無沙汰しております、修道院長」
「レアちゃん、お久しぶりね。少し元気がないようだけど、体調は大丈夫かしら?」

 ソファーから立ち上がり、入室したレアに近づき声を掛けるイリス。

「大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ございません」

 イリスへ謝罪するレアに、エリザベスが話しかけた。

「レア、何かあったの?」

「ああ、ちょっと。ここに来る途中で兄と会ったんだが、少し言い合いになってしまってな……まあ、能筋には話しても無駄だった」
「…………」
「……そう」

 レアを見ながら、もの言いたげなエリザベスと呆れるエマ。何のことやらと三人を見つめるルイーズとエリー。

 その時、ルイーズがレアに近づき、彼女の手をそっと掴んで持ち上げた。手に付着している赤い染みを見つけたようだ。自分のハンカチを急ぎポケットから取り出すと、赤い染みを押さえながら拭き取っている。

「レアさんの血ではないようですが……、少し傷がついています。痛みはありませんか?」

 ルイーズに手当をしてもらいながら、自分の手とルイーズの顔を交互に見るレア。

「ありがとう、大丈夫だ。ルーちゃん感謝する」
「良かったです。でも消毒はした方が良いですね。修道院長様、こちらの部屋に薬品はありますか?」
「ごめんなさい。こちらには無いの。今、医務室から持ってくるわ」
「大丈夫です。それでは私が行ってきます」
「ルイーズ、私も行くわ」

 先ほど院長室に来るまでの間、エリザベスに院内を案内してもらった二人は、医務室も確認していたようだ。侍女科に移ってからの二人は、軽い怪我をすることが度々あった。その時、怪我を軽くみてはいけないことをマノン先生から言い聞かされていたようだ。