ルイーズは、気持ちを固めてから男爵に挨拶をした。

「お久しぶりでございます。本日はいかがなさいましたか」

「久しぶりだね。今日は突然の訪問ですまないね。実は、婚約に関することで話があって伺ったのだよ。」

「婚約の話……ですか?」

 ルイーズの問いに答えるように、オスカーが言葉を引き継いだ。

「ルイーズ、ごめんね。僕は、どうしても君を一人の女性として見ることができなくて……。これでも嫡男だから……それでは困るだろう? これから先も、その思いは変わらないと思う。だから、婚約を解消したいと思っているんだ。」

 オスカーは、金髪碧眼で世間一般の美男子の部類には入るのだろう。きっと自分でも自覚しているはずだ。それでも、中身が残念すぎる。

「こんな…、無神経な人だったかしら……」

 小声だが、驚きで心の声が漏れてしまったようだ。ルイーズは、オスカーから視線を外して、父親を見る。困惑してはいるが、仕方がないという表情だ。その表情を見たルーズは、この婚約に終止符を打つ覚悟をしたようだ。

「婚約についてのお話はわかりました。私としては、契約を無効としていただいてかまいません。ですが、解消だと慰謝料が発生する場合もあるかと思うのですが......白紙ではなくてよろしいのでしょうか」

「ルイーズちゃんありがとう。愚息が本当に申し訳ない。こちらとしても、婚約は白紙にしていただきたいと思っている。ルーベルト、どうだろう」

「ああ、そうだな……。こちらとしては、ルイーズが納得しているならそれでいい」

 男爵は頭を下げ、息子の不義理を何度も詫びた。常識人だと思っていた男爵でも、やはり息子には甘いようだ。しかし、思ったよりも早い段階で話がまとまったことに、ルイーズは胸を撫でおろしたようだ。

「父さん!白紙じゃだめだ!解消か破棄じゃないと!!」

これで一件落着かと思いきや、オスカーが意味不明なことを叫びだした。オスカー以外の者たちは何事かと彼に目を向けた。