「エリーは、二人で一緒に侍女科へ移れたことは、喜んでいたのよ。でも、『ルイーズは、あの頃のことを覚えていない』て言うのよ。あの子はそれ以外の事を教えてくれないし、その時は、子供の頃の記憶なんて、曖昧なこともあるかと思ったのだけど……。後から考えると、違和感があるのよね。ルーちゃんは、特に、思い出とか約束とかを大切にしそうなのに、覚えていないなんてことあるのかしらって。小さな頃の事を覚えていなくても、仕様がない……、で片づけてはいけないような……。ごめんなさい。話している私が分からないのに、理解するのは難しいわよね」

「そうね。でも、エマが違和感を覚える気持ちは理解できたわ。そういう違和感を、甘く見てはいけないのよね」

 それまで、聞き役に徹していたレアが、話を切り出した。

「ルーちゃんの家名はブランだったか……、ブラン子爵家。確か、先代当主は端麗で剣のお強い方だった、という話を父から聞いたことがある。先代は、今も健在なのだろうか」

 ブラン子爵家の先代当主について聞かれたエマは、昔のことを思い出しながら、考えを巡らせているようだ。

「そういえば、諸外国を巡っていると聞いたことがあるわ。ルーちゃんが幼少の頃は、よく一緒に連れて歩いていたそうよ。歳の離れた弟がいるのだけど、その子が生まれるまでは、ルーちゃんを後継者として、育てていたのではないかしら」

「ねえ、エリーは他に何か言っていなかった?」

「子供の頃は、ルーちゃんの目はとても綺麗だって言っていたわ。『森の中ってあんな感じなのかしら』て聞かれたことがあるの。私の想像する森は暗い印象だから、『森は暗くて怖いわよ』と答えたのだけど……」

 目を閉じて思考するエマを、エリザベスとレアが静かに見守っていると、気になることがあったのか、エマが二人に問いかけた。

「二人は、小さい頃に絵本や写本を見たり読んだりしたことはある?」
「もちろんあるわ」
「ないな」

エマの疑問に答えるエリザベスとレア。