「そう……。院長先生が……」

「院長先生は、私が学院に通っていた時は、教員だったの。グレース先生とお呼びしていたのよ。歳は離れているけれど、お姉様のような存在だったわ。
美しいだけではなく、知的で優雅で、それでいて寛容で……。学院に入学して教えを受けたときには、こんなにも素晴らしい人がいるのかと、感動したことを覚えているわ。私たちの世代では、憧れていた人が多いのではないかしら」

「そうなのですね」

「ごめんなさいね。一人で話し過ぎたわ。とても懐かしくなってしまって」

「いえ、そういう事が知りたいのです。学院にもようやく慣れてきて、まだ分からない事ばかりなので」

「そうよね」

「それでは……最近気になっていることがあるのですが、お聞きしてもいいですか?」

 何となくだが、人に聞くのが躊躇われる場面を、学院で時折見かけることがあったことを思い出し、ルイーズはエイミーに尋ねることにした。

「何かしら? もう何十年も前の話だから、私のわかる範囲でよければ答えるわ」

「上級生たちが、丘の上の修道院がある方角に、身体を向けて、ひっそりと祈るところを何度か見たことがあるのですが、信仰心が篤い方たちなのでしょうか。上級生たちは、あの場所に出向かわれたことがあるのでしょうか。私は、まだ訪れてことがないので、伺ってみたいと思っていたのです」

 ルイーズにとって、あの修道院は神聖な場所というイメージしかなかった。小高い丘の上に建つ象牙色の修道院は、その麓にある学院から見上げれば、寛容で温かな雰囲気だ。

 エイミーには、ルイーズの言っていることがすぐに分かった。自身にも覚えのある行為なのだから。