伯爵家三姉妹の末っ子でありながら、しっかり者で優秀なエリー。今は婚約者がいなくても、将来を見据えた最善の道を歩んでいくのだろうとは思っていた。
しかし、ここにきての突き放し。ルイーズは、エリーの話による急展開に、少しの間我を忘れたようだ。

 ルイーズとしては、将来は決められたレールを歩くのが当然だと思っていた。女学院を卒業した後は、幼馴染で婚約者の彼と結婚をして、家庭を築いていくのだと、信じて疑わなかった。しかし、それも先ほどの光景を目にしたことで、自分の中で結末を迎えたようだ。

 我に返ったルイーズは、エリーを見つめた。

 エリーに、侍女という職業は結びつかないが、自分の意志で前を向いている女性は、それだけで尊い存在だ。そんな友を誇りに思うが、悲しいかな。前を向き輝いている〈親友〉と、婚約者に裏切られてこの先お先真っ暗な〈自分〉を比べたくなくても比べてしまう。
ルイーズは、込み上げてくる涙と震える声を、どうにか堪えてエリーに伝えた。

「エリーはすごいわ。将来を見据えての方向転換なんて、中々できることではないもの。
侍女科に行ったら……、一緒に過ごせる時間が少なくなるのは寂しいけど、応援するわ」

 ルイーズの表情と声から、エリーも思うところがあるのだろう。

「ありがとう。ルイーズにそう言ってもらえると嬉しいわ。
侍女科では医療や薬草についても学ぶことができるから、今からとても楽しみなの。
……でも不安なこともあるのよね」

「エリーが不安がるようなことなんてあるかしら?なんでもそつなくこなせるし……全く思い浮かばないわ」

「侍女科のカリキュラムは、家庭的なこと全般を学ぶ授業が多いでしょう。私は、刺繍とお茶を入れることしか出来ないから、少し不安なの。でも、まだ時間はあるし、自分で決めたことだから、最後まで頑張るつもりよ。でも……もしルイーズが一緒だったら心強いのにって、思ってしまうのよね」

 ルイーズは、エリーがそんな風に思っていたことを知って、少しだけ気持ちが上向きになった。