両親に、自身の決心を語った翌日には、父親から侍女科への転科を認めてもらえたルイーズ。あの後、執務室で起こったであろうことを知らないルイーズは、少しばかり戸惑ったが、二人に感謝した。もちろん、トーマスにも御礼を伝えたようだ。

 今日は、普段より早い時間に学院へ到着したので、ルイーズは教室に向かい、授業の準備を整えてから事務室へ向かった。同じ階にあるため、始業時間までには戻ってこられるだろう。

 多くの日の光が差し込む教室と比べて、事務室へ続く廊下はガラスシェードの間接照明と、窓ガラスから差し込む控えめな光が、床のモザイク柄を照らしている。優し気なクリーム色の壁と、ダークブラウンの重厚なドアが相まって、凛とした空気を放っている。
室内からは教員の声が聞こえてきた。

 ルイーズは昂ぶる気持ちを抑えつつ、ドアをノックした。

「お入りください」

 返事を聞き室内に入るルイーズ。

「失礼いたします」
「おはようございます。早い時間から申し訳ありません。本日は、事務手続きに関する書類を頂きたく参りました」

 丁度よく、淑女科の教員がいたようだ。

「何の書類かしら」
「淑女科から、侍女科に転科するための書類です」

 教員は、戸惑いながらルイーズに尋ねた。

「ブランさん、あなたは確か、婚約者がいたわよね」
「はい。まだ、手続きの最中ですが、婚約は白紙になります
「そうだったの……。それは残念だったわね。」
「先生、お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫です。……もしかして転科出来ないということもありますか」
「断定はできないけど、成績は大丈夫だと思うわ。後は面接ね。それから……、このことを御両親はご存じなのかしら」
「はい、知っています。転科することにも、許可をもらえました」
「それなら、面接だけど……侍女科の先生の予定を確認してからになるわね」

そんなやり取りを、離れた場所から見ていた人物がいた。