ルイーズが去った後の執務室では……。

 母親のエイミーが、父親ルーベルトの説得を始めていた。

「今回の婚約が駄目になったことで、あの子は将来について悩んでいたわ。
親の決めた婚約にも、素直に従って頑張ってきたのに……その結果が婚約白紙よ。
いつも周りのことを第一に考えるあの子が、自ら考え行動したの。その思いを、無にしたくないの。だから、私はあの子を応援するわ」

「分かっている……分かっているんだ。でも、娘には苦労してほしくないんだ。だから、婚約だって、領地が隣の彼奴の所に決めたんだぞ!なのに、彼奴の息子は!一体ルイーズのどこに不満があるんだ!」

「坊ちゃま」

 低音ボイスで主を呼びながら凝視するトーマス。

「だから、坊ちゃまというな!怒ると坊ちゃま呼びをするのは止めてくれ」

「あなた、トーマスに怒鳴らないで」

 ルーベルトをなだめるエイミー。

「それに……もう済んだことよ。ルイーズが前を向いているの。私たちが後ろ向きになってどうするの。貴方には、あの子の考えを受け入れて、背中を押してあげてほしいの」

「しかし、侍女科ということは……この先、婚約は考えていないということか?」

「それは、まだ分からないわ」

 トーマスは、エイミーの体調を心配して、二人の会話に割って入った。

「奥様、体調を崩されたら大変です。もうお部屋にお戻りになられたほうがよろしいでしょう」

「そうさせてもらいますわ。後のことはお願いしても良いかしら」

「勿論です。私にお任せ下さい」

 にっこりとほほ笑むトーマス。

「ありがとう、トーマス。お願いしますね」

「はい」

 その後はトーマスの独壇場となった。