今日は母親が馬車を使うのだろう。モーリスは馬を休憩させてから屋敷に戻り、また馬を交代して用事を済ませてから、学院に迎えに来てくれる。

 お辞儀をして見送るモーリスに、別れを告げると、ルイーズは入口に向かって歩き出した。

「屋敷から通える距離だと思って、通学を選んでしまったけれど、皆のことを考えたら、入寮を検討しても良かったのかもしれないわね……」

 そんなことを考え歩くうちに、入口にたどり着いた。学内に入ると、清廉な空気が漂っている。その空気を肌身に感じると、自然と気が引き締まる。

 廊下を歩き、一階奥にある自分の教室へ向かう。教室に入ると、クラスメイトに挨拶をして席につく。椅子に腰かけると、先日作成した〈Lノート〉を通学カバンから取り出して、先ほどまで考えていたことを思いつくまま書き記していく。

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馬車通学→自分以外の家族が使用するときはモーリスが往復(お父様は乗馬も可能)
寮→家族や皆に中々会えない。帰宅は週に一回

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「自力で通学する手段でもあれば良いのだけど……」

 ルイーズが何やら考えている間に、クラスメイト達が教室に入ってきたようだ。その中にはエリーもいて、ルイーズに声を掛けてきた。
「ルイーズ、おはよう。今日も早いわね」

「おはよう、エリー。この前はハーブとクッキーをありがとう。美味しくいただいたわ。
それに、母がとても喜んでいて、お礼を言っていたわ」

「それは良かったわ。おば様も、起き上がれる時間が増えたのかしら。またお邪魔したときにでも、体調が良ければご挨拶がしたいわ」
「ありがとう、母もきっと喜ぶわ」

 ルイーズとエリーの母親は、女学院の同窓で仲が良かったようだ。お互いに屋敷へ招き入れ、お茶をする仲である。娘たちも同年齢ということで、何度も引き合わされるうちに友情が芽生え、育まれたようだ。そのため、お互いの母親のこともよく理解しているのだろう。
 廊下の方から教師の足音が聞こえてくると、エリーは「また、後でね」と囁いて、急いで席に着いた。