婚約を白紙にすることが決まってから二日後の朝、ルイーズは馬車に乗って女学院に向かっていた。この時間は読書をしたり、考え事をしたりと、ゆっくりとした時間を過ごせるため、とても気に入っているようだ。

 自宅から女学院までの道程は、緑豊かな緑色から、爽やかな空色の景色に変わっていく。ルイーズは、そのゆったりと流れる色の変化を楽しんでいる。休日を挟み、屋敷でゆったりと過ごしたことで、穏やかな気持ちになれたようだ。

 ルイーズは、馬車の中で昨日までの出来事を思い返す。

「お父様には『これからのことを考える時間がほしい』と伝えたけど、他の貴族家では許されないことかもしれない。貴族令嬢としては駄目よね。でも、折角与えられた貴重な時間だもの、私に何ができるのか考えたい」

 貴族としての従来の考え方を追い出すかのように、頭を何度も横に振るルイーズ。固定観念や先入観から解放されたいのだろうか。しかし、それらを手放すのは簡単なことではないだろう。今までは、《決められた道を歩むのが当たり前》だと思っていたルイーズにとって、自分の道を作ることに、戸惑いと迷いが生じるのは仕方のないことだ。

考えに耽る中、エリーと母親の言葉が何度も何度も頭を過ぎった。


 しばらくの時が経ち、ルイーズが馬車の窓から外の景色を眺めていると、乳白色の建物が視界に入ってきた。その場所に続いている広い並木道を進めば、ルイーズの通うカルディニア王国女学院だ。

 少し進んだところで、馬車はそのまま学院の門を潜り、その先にある広いエリアに馬車を停める。ルイーズは御者のモーリスが開けてくれたドアから降りると、御礼を伝えた。

「モーリス、ありがとう」

「とんでもないことです。ルイーズお嬢様、本日は一旦お屋敷に戻ります。授業が終わるころに、乗降場でお待ちしております」

「わかったわ、お迎えよろしくね」