深夜三時を過ぎた頃、リリーのいる部屋に一人の侍女とクレメント兄妹の叔母が忍び込んだ。
二人はリリーのいるベッドに近づくと、顔を確認するかのように覗き込んでいる。

「暗くて良く見えないわ。お前、明かりを近づけて」

ベッドサイドに置かれているランプも消えているため、暗がりで顔がよく見えないのだろう。後ろに控える侍女に、蝋燭を近づけるように命令をした。

「奥様、これ以上は気づかれます」
「気づかれても大丈夫よ。そのときは、口を塞いでちょうだい」
侍女が言われた通りに明かりをベッドの顔の辺りに近づけるが、眠っているその人物の顔は、半分以上がまくらに押し付けられているためあまり良く見えないようだ。

「顔が良く見えないけど、髪は薄紫よね……本当に忌々しい。見ているだけで腹が立つわ!」

叔母は、侍女に向かい手を差し出すと、茶色い小瓶を受け取ったようだ。

「これは私が飲ませるから、この子が暴れたら、お前は押さえ込んで」
「本当に……、やるんですか?」
「今更なに言ってるの。あなたたちが失敗ばかりするから、私が自らこんなことをしないといけなくなったんじゃないの」

小声で話すその内容は、とても物騒だ。

「時間がないわ、早くやるわよ」